2004年06月22日
さみしいけど、おいしかったです。
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先日、突然出張を命ぜられた。
まあ良くあることだが、いつもと違うのは、全て一人で行動すること。
基本的に僕は一人で客先に行くことは無く、
営業マンと待ち合わせし同行することになっている。
今回、さらに特別なのは、
客先にデスクを用意してもらい、そこで仕事をする事!
しかも一人。
針のムシロ。
四面楚歌。
ひぇー。
予定は3日間。
というわけで、今日は夕方から一人、Pisaの近くTirreniaのホテルへ3時間かけて移動。
一人での移動も、もう慣れたな。
このホテル、前の日記にも書いたが、完全なリゾートホテル。
こういうところで一人は、特にさびしい。
夜8時過ぎ、到着し、荷物を置いた後、早速夕飯。
ファブリッツィオはオフィスを出る前、いつもの通り、
「あそこのレストランがああだ」
「どこそこのレストランはこうだ」
色々教えてくれたが...うるさい!一人で出かける気になるかよ!
ということで、そのホテルの敷地内のレストランへ直行。
席に案内されると、メニューを出すより先に
パンが入ったかごと小皿が出されてきた。
「この小皿何?」
と思うまもなく、薄緑色に輝く液体が注ぎ込まれた。
『オリーブオイル』
さっそくパンに軽くつけ、口の中に、入れようとした瞬間、むせ返るような強烈な香り!
「なんだこのオリーブは!?」
あわてて口に放り込むとその強烈な香りが口から鼻にかけ、走り抜けた。
未だかつてこんな香りのオリーブオイル、いや、液体を口にしたことはない!
一人、混乱にも似た興奮をしていると、メニューが届けられた。
「おー、珍しく英語のメニューだ。さすがリゾート。」
などと、訳のわからない関心をしながらメニューに目を通す。
「あれ、メニュー少ねーぞ。」
それもそのはず、よく見ると、本日のメニューだ。
ということは、全て日替わりだ。
「いいかも、ここ!」
そんなことを考えていると、
「ガス入りがよろしいですか、ガス無しがよろしいですか?」
水を聞いてきた。
「オーダー前に水を入れようなんて、なんと気のきく兄ちゃんだ。」
またまた微妙に関心。
期待に胸を膨らませ、勢いあまって、さほどおなかもすいてないのに、プリモとセコンドを頼んでしまった。
「やばい、食えるか。」
僕は小男にふさわしく、小食である。
と、そこに、さっきの水差し男が登場。
「ワインはどのようにしましょう?」
僕はいつもどおり、ビシッと、
「ハウスワインを赤で」(←だって訳わからないんだもん、ワイン)
で、早速、ハウスワイン登場。
「□△地方の○△◇□です。」(←何言ったか全くわからない)
「シーシー」(←でも、知ったかぶってフムフムって感じ)
味見。
「よろしゅーございます。」(←気取り気味)
いや、本当によろしゅうございました!
僕はこの味を覚えている。
・・・・・・
そう、あれは忘れもしない、六本木の有名店「Viaggio」の、あの時のワインの香りだ。
僕は当時、文子というワインかぶれの女性に惚れていた。
そして、彼女を誘っては、毎週のように飲めもしないワインを飲みに行ったものだ。
その時の彼女のワインの話、聞いたことも無い言葉をすらすら口にする彼女は、
まるで、美しい小悪魔が呪文を唱えているかのようだった。
そして、その呪文は僕を魅了した。
彼女のハート型の唇を染めるタンニンを、妙にうらやましく思ったのを今でも覚えている。
(登場人物、等、すべてフィクションです。)
・・・・・
と、ノスタルジックに溺れていると、そこに皿が登場...
「って待てよ、これ頼んでないぞ。」
「あの、すみません、これ頼んでませんけど。」
この言葉を口にする数秒前、
軽く天使と悪魔が葛藤した結果、悪魔があっさり勝ってしまい、
少し手をつけてから兄ちゃんに申告した。
「あー、これは含まれております。」
「な、なんと、気のきく、いや、ちがう、余計に払わされるだけじゃん。」
普段の僕なら思っていただろう。
だが今日はちがう。
この皿の中にある白い物体、生ハムの中でも一番僕の好きな
『ラルド』
口に放り込んだ瞬間、妙な塩辛さに、少し嫌悪感を感じたもののそれはほんの一瞬で、
直後の濃厚な味はその塩辛さすらものともせず僕の脳髄を直撃した。
「うまい!」
気が付けばあっという間になくなっていた。
その余韻に浸っていると、パスタがやってきた。
バジル、イカ、トマト。
具はいたって少なめ。そのせいか、妙に貧弱に見える。
食べる。
薄味。
「味、薄っ!で、でも、なんだか、うまい!」
こんなにシンプルなのに、
いや、シンプルがゆえに、舌が、味蕾が、総動員で味わい尽くそうとしているのだ!
さっきの濃厚なラルドはもうとっくの昔の出来事にされようとしている。
『濃い→薄い』 で、成功したのは、今回が世界でも初ではなかろうか!?
そして、セコンドが登場。
いわゆる、4番松井の登場である。
僕の頼んだのは、ビーフ。
その表面の香ばしく火の通った色と、先ほどまで生きていたかのようなレアの赤。
僕は、一目見てホームランバッターとわかるその姿に、しばらく見とれていた。
ホームランバッターというのは、場外まで運べるパワーはもちろんのこと、
どんな状況でもフルスイングできる胆力を持つ男のことだ。
その肉片は5枚。
僕はその胆力をこの5枚に感じとっていた。
もぐもぐもぐもぐ。
もう、なにも言うことはなかった。
この味を言葉で表すには僕はまだ若すぎる。
このホテルの住所:
Via delle Magnolie, 4 - 56018 Tirrenia (Pisa)
Tel. 050 3135711